建設業許可に関連する法律 建設業法 第3章-3
第19条の3 不当に低い請負代金の禁止
注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。
・自己の取引上の地位を不当に利用とは
通常、大規模な建設工事を継続的に発注する注文者は、指名権・選択権などを持つことにより、請負人に対して交渉力において優越した立場にあります。
自己の取引上の地位を不当に利用するということは、注文者がこのような交渉力の格差を利用して、請負人に対し不当な圧迫を加えることをいいます。
民事法では、経済的強迫あるいは不当威圧と呼ばれることもあります。ただ、具体的にどのような場合がこれに該当するのかは、個別のケースの評価によります。
例えば、交渉力において優位にある注文者が、不当に低い請負代金を提示し、これを受け入れない場合には以後の取引において不利益を及ぼす旨を告げ、請負人の意思決定に不当な圧迫を加えるような場合はこれにあたります。
このことを下請人についていえば、取引上優越的な地位にある元請負人が、下請負人の指名権、選択権などを背景に、下請負人を経済的に不当に圧迫するような取引などを強いることをいいます。
そして、取引上優越的な地位にある場合とは、下請負人にとって元請負人との取引の継続が困難になることが下請負人の事業経営上大きな支障をきたすため、元請負人が下請負人にとって著しく不利益な要請を行っても、下請負人がこれを受け入れざるをえないような場合を指します。
取引上優越的な地位にあたるか否かについては、当該元請下請間の取引依存度などが重要な目安となります(建設業法令遵守ガイドライン)。
・通常必要と認められる原価とは
通常必要と認められる原価とは、一般に、工事の施工場所の地域性や工事の具体的内容を総合的に判断して、通常その工事に必要と認められる価格をいいます。
より具体的には、標準的な歩掛り、単価、材料費、直接経費を基礎とした直接工事費、共通仮設費、現場管理費などの間接工事費、一般管理費などの合算により算定します。この場合の一般管理費には、利潤相当額を含まないものとして取り扱われます。
実際にこれらの額を評価するに際しては、種々の調査が必要となります。
特に下請負についていえば、元請負人と下請負人の双方の義務であるべきところを下請負人に一方的に義務を課すものや、元請負人の裁量の範囲が大きく、下請負人に過大な負担を課す内容など、建設工事標準下請契約約款に比べて片務的な内容による契約は、本条に反する不当に低い請負代金を強いる可能性が高くなるので、適当ではないでしょう。
また、指値発注は、元請負人としての地位の不当利用にあたるものと考えられますが、その結果、下請代金の額がその工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合には、当該元請下請間の取引依存度などによっては、本条の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがあります。
さらに、社会保険などの保険料は、建設業者が義務的に負担しなければならない法定福利費とされており、通常必要と認められる原価に含まれます。
そこで、元請負人および下請負人は見積時から法定福利費を必要経費として適正に確保する必要があります。加えて、法20条1項において、建設業者は建設工事の請負契約を締結するに際し、経費の内訳を明らかにして建設工事の見積りを行うよう努めなければならないこととされています。
このため、元請負人は、専門工事業団体などが作成した標準見積書の活用などによる法定福利費相当額を内訳明示した見積書を提出するよう下請負人に働きかけるとともに、提出された見積書を尊重して下請負契約を締結します。
具体的には、下請負人が自ら負担しなければならない法定福利費を適正に見積り、元請負人に提示できるよう、見積条件の提示の際に適正な法定福利費を内訳明示した見積書(特段の理由により、これを作成することが困難な場合にあっては、適正な法定福利費を含んだ見積書)を提出するよう明示します。
加えて、社会保険の加入に必要な法定福利費については、提出された見積書を尊重し、各々の対等な立場における合意に基づいて請負金額に適切に反映することも必要です。
元請負人がこの法定福利費相当額を一方的に削減したり、法定福利費相当額を含めない金額で建設工事の請負契約を締結し、その結果、通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合には、当該元請下請間の取引依存度などによっては、本条の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがあります(建設業法令遵守ガイドライン)。
第19条の3 解釈
建設工事の請負契約の締結にあたり、取引上優位な立場にある注文者が、その優位性を不当に利用して一方的に有利な契約を締結することを防止しようとするものです。
これに違反すると、建設業法や独占禁止法に基づいて、勧告その他の措置がとられます。
近頃は逆に注文者の方から、「法定福利費」の項目を設けた見積書にするようにと、見積書の再提出を求められるようにもなってきましたが、途中で工事金額の減額などがあった場合、計算し直すのに混乱することがありますね。
建設業許可に関連する法律 建設業法 第3章-3 まとめ
第19条の3
請負契約の締結にあたって、取引上優位な立場にある注文者が、その優位性を不当に利用して一方的に有利な契約を締結することを防止しています。